川の京都ガイドツアー・レポート第2回 悠久の水道
京都府内の河川を巡り、川の魅力を発見する「川の京都ガイドツアー」。その第2回目は2025年11月下旬、「悠久の水道~保津川舟運が育んだ自然と歴史を巡る川の旅~」と題して、保津川を舞台に開催されました。その模様をお伝えします。
亀岡水辺公園から見える保津川の景色。
この日の集合場所は、朝9時に亀岡水辺公園。京都駅からJR山陰本線/嵯峨野線の各駅停車で約35分。20kmほどの距離ですが、車窓から深い山や長閑な畑が見え、途中からは霧が出て視界不良になるほど。2024年10月に公開された映画『つぎとまります』は亀岡市を舞台にしていて、“霧の町”と紹介していたのを思い出しました。
最寄りの千代川駅で降り、亀岡水辺公園までは歩いてすぐ。保津川に面した“川の駅”でもあるここに来ると霧は晴れて、雄大で美しい景色が眼前に広がります。
最初に周遊展示室(つきよみルーム)でレクチャーを受けます。
この日、配布されたのは資料とともにイヤホンガイドのレシーバーも。
最初にレクチャーを受けます。この日のガイド、保津川遊船企業組合代表理事の豊田知八さんが解説してくれました。まずは保津峡を擁する桂川について、ディスプレーを使って丁寧に説明されます。このあたりは、2億5千万年前に旧赤道の深海部でプランクトンが堆積した地層が、長年の間に海洋プレート運動にともない現在の位置まで移動してきたそう。まさか京都の山間にそんな歴史があったとは。メインの保津川は、亀岡市から京都市内嵐山の渡月橋までの約12km。図解で川の蛇行具合もよくわかります。
この保津川に影響を与えた歴史上の人物として、桓武天皇(737~806)、秦河勝(はたのかわかつ、6世紀後半~7世紀前半)、角倉了以(すみのくら・りょうい、1554~1614)が紹介され、保津川水運の歴史を教わります。
「保津川水運のはじまりは桓武天皇の時代。平安京造営のため、山から切り出した木材運搬の手段として筏(いかだ)をつくり、嵯峨嵐山、梅津、桂は筏の集積地でした。江戸時代になり、豪商・角倉了以によって保津川舟運、保津川下りが誕生します。この険しい渓谷を舟が通れるよう開削したのです」と豊田さんが熱く解説。
当時、まだ重機もなかった時代に人の手を使ってこの険しい流れの中を開削し、舟を下れるように実現するには想像を絶する苦労があったと偲ばれます。以来400年以上継承され続ける操船術、自然と対峙し川を復旧する川作(かわさく)技など、保津川下りを支える皆さんの努力を知ることができました。
わかりやすく、丁寧に保津川水運の歴史を解説してくれた豊田知八さん。
保津川水運の歴史を学んだあとは、車で移動して保津川下り乗船場へ。いよいよ舟に乗り込みます。乗船場には外国人観光客も多数。一昨年から増え始め、利用客の外国人比率は全体の7割だそうです。
さあ、定員24名の舟に乗り込みます。船頭さんは3名。ゆるやかに出発です。舟が進み始めると、船頭さんが要所要所で楽しく解説トーク。約16kmの行程、エンジンのない手動の小舟ですから、船頭さんの操船は大変です。下るとはいえ櫂で漕ぐ必要があり、重労働。3人の船頭さんが順次交代していきます。
保津川下りのチケットを受け取り、いざ乗船。
亀岡の乗船場からスタート。この時点ではいたって穏やかな水の流れ。
今回は特別に豊田さんも同行され、保津川を下りながらイヤホンガイドで解説をしてくれます。
「まだこのあたりは穏やかな流れですね。あ、右をご覧ください、馬車がやってきましたよ。トロッコ亀岡駅から乗れる京馬車ですね」と豊田さんが指さすと小さな歓声が上がります。
後方に陣取り、イヤホンガイドで解説をする豊田さん。
偶然、川辺を通りがかった京馬車に遭遇。
ここで保津川下りのルートをご紹介しましょう。約16kmを通常約2時間かけて下ります(※水量などによっては3時間近くかかることもあります)。途中、美しい渓谷の景色だけでなく、珍しい形の奇岩も多数見受けられ、見所が多いのが特徴です(以下ルートマップ参照)。
蛇行した長い行程には、様々な見所があります。画像提供/保津川遊船企業組合
「さあ、みなさんが期待されている落差のある急流ポイントに差し掛かりますよ。水しぶきが跳ねて濡れるかもしれないので、先頭や船べりの方はシートで足元を覆ってください」と船頭さんが予告すると間もなく、「小鮎の滝」を通過。迫力ある急流下りに歓声があがります。
途中、カエルやライオンの形などに見えるユニークな奇岩にいくつも出合います。この日は紅葉のピークでもあり、鮮やかに紅く染まった樹木に目も心も和みます。
穏やかな場所を通る際には、船頭さんは山の景色にも言及します。
「みなさん、前方に見える山のてっぺんをご覧ください。何に見えますか?」
お子さん連れのファミリーはすぐに反応。世界的に有名なゲームのキャラクターに見えるようです。楽しい船頭さんのトークに何度も笑いが起こります。
落差のある急流を通るたびに歓声があがります。
保津川の流域には美しい紅葉が目白押し。参加者は盛んにカメラのシャッターを切ります。
途中、船頭さんがポジションを交代しながら下っていくなか、操船技術の見せ場のひとつ、「竿さし」を披露するタイミングがあります。
「船頭さんの新人は、まず櫂引きから始めますが、それができるようになると、次が竿さし。竿の長さは3m半もあり、これは船の舳先から櫂を引く場所までの距離とほぼ同じ。竿を扱うのは非常に難しいんです」と豊田さんがイヤホンガイドで説明してくれます。
すると間もなく見所に。船頭さんからも注目するよう声がかかります。さあ、上手くいくでしょうか……やった! 見事、岩にできた竿つぼのくぼみをついて舟を進めました。長年にわたり竿でつかれた箇所がくぼんでいるんですね。細やかな船頭さんの技術を目の当たりにした参加者たちは驚嘆の表情。
動いている舟の上から竿つぼをつく船頭さんの技術に驚かされます。
こうして保津川を下っていくと、何度か鉄道が走る橋梁の下をくぐります。
「この橋梁の土台の部分を見てください。明治時代に造られたデザインはレトロモダンでかっこいいですよね。江戸時代から明治になって、まだそれほど年月が経っていない時代に、こんな山の中に鉄道を走らせた当時の日本人の努力と技術には感心させられます」と豊田さんのイヤホンガイドが続きます。
嵯峨野観光線が走る保津川橋梁を間近に見られます。
川幅が広くなり、嵐山の賑わいも見えてきました。2時間以上にわたる保津川下りもゴールに近づきます。この日は秋の行楽シーズンで渡月橋も大賑わいです。躍動感に満ち、美しい自然と保津川の流れに癒された参加者はここで下船します。
このあとは、角倉了以所縁の旅館『花のいえ』に向かいます。かつて角倉了が保津川を開削した際、この地に舟番所を設けましたが、その趾が『花のいえ』です。敷地は約5,000㎡(約1,500坪) もあるそうです。当時のものといわれる離れ座敷をはじめ、狩野派の杉戸絵や枯山水の中庭園(伝 小堀 遠州作)など歴史好きには堪らない逸品に満ちた老舗。こちらで京都らしい和食の昼食をとって、今回のガイドツアーは終了です。
朝の亀岡集合から約4時間超、参加者の皆さんはガイドツアーに満足された様子。角倉了以の偉業を随所に感じられた秋の保津川下りのガイドツアーでした。
保津川下りのあとは、角倉了以所縁の『花のいえ』で昼食。
紅葉も映える素晴らしい庭園もあり、寛ぎの時間を過ごせました。
●京の川巡り・第8回「保津川と角倉了以」もご参照ください。
https://www.kyoto-kankou.or.jp/kawanokyoto/news/44